宮下智吉 漆の器
大学で漆の勉強を始め、卒業をしてから10年が経ちます。
木地から、上塗り、仕上げまでを一貫して制作することが、
大学の教育方針でしたので、そういうものだと制作をしてきました。
木地加工も、下地も、塗りも、工程全て楽しくて、
それぞれわからないことが多くて、うまくいかないことも多くて、
知りたくて、続けていたら、
一貫して制作するのが自分にとって丁度いい制作リズムになっていました。
専門職の職人さんと比べたら、技術は足りないことばかりだと思うことが多いので、
材料、素材、道具を自分に手に入れることのできる一番いいものにしたいと思いました。
いい材料、いい道具を揃えられたら、うまくできないのは自分の技量のせいになります。
自分の技量に言い訳をしないというか、自分の技量の足りなさがはっきりわかるように、
制作に取り組みたいと思いました。
材料は、お世話になっている職人さん、専門の方に、恵まれた材木屋さんを紹介していただき。
道具も紹介をいただき、不足なくそろえることができ。
漆は、岩手、茨城の職人さんから譲っていただいています。
顔が見えなかったり、何が混ざっているのか何かわからないような漆を扱って、
この器はいいものだと人に薦めることはできないと思い、
もう8年くらいは経つでしょうか、その時から顔が見える職人さんからの日本産漆しか使わなくなりました。
日本産の方が外国産の漆よりも必ずしも勝るとか、そういうことではなくて、
顔が見えることの安心感。気持ちの良さ。
多分、下地から全部、日本産漆で制作しているなんて、嘘だと思われると思うし、
頭悪いのでないかと思われるのでしょうけど。高価なものを使って勿体無いとか。
漆工技術にとって、当たり前になっている方法も、
なんだか疑問に思うところもあって、
顔が見える生産者のものを使う、自分の目で確かめられるものを扱いたい。
それはただ、制作していても気持ちがいいですし。
もちろん、仕上りの艶も、肌も、力を感じますし、品がある。
自分の技術以上に力をいただいています。
浄法寺をはじめとする岩手も、茨城も、漆の採取量に対して、需要量が多いのが近年続いています。
漆の木を植える。保育管理する。漆の木を育てる。漆を採取する。
循環が上手くいっていないので、漆の確保も年々厳しくなっています。
気心知れている職人さんの漆のみを扱い、いつまで制作を続けられるかは今はわからないけれど。
制作する上で気持ちがいい状態を保つことを大切にして、
できる限り今の状況を維持していきたいと思っています。
いい材料を揃えるって、自分にとっては趣味みたいなことなので、利益なんて程々でいい。
開店当初から何年たっても値段を変えず、こだわりの料理を作り続けるような町の食堂のように。でも無理しすぎてある日疾走しないように。
そして、いい器というのは、素材、材料の良さだけではないと思うから、それは見失わないように。
自分が制作を続けることで、自分を支えてくれている、素材、材料、漆、を提供してくれる職人さん達を、少しの力だとしても継続して支えることになればと思っています。
宮下智吉
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