百聞も百目も

教室の研修旅行で、岩手県に行きました。

訪問先は、

タイマグラ集落の、桶職人の南部桶正さん、たいまぐら便りの安部智穂さん。

一戸、浄法寺周辺の、漆掻き職人の猪狩史幸さん。

今年も、お仕事のお忙しい中、このような機会に時間を割いていただいただき、

ご準備していただいたことに感謝します。


タイマグラへは、盛岡市内から早池峰山方面に1時間半ほど山道を走らせます。

初めて行ったときはとてもとても遠い場所だと思ったけれど、

何度か行くと近く感じてくるのが不思議で、タイマグラに向かう森林に囲まれた山道は

運転もとても気持ちがいい。

 ちほさんと、桶正さん、お姉ちゃん、猫たちにまた会えて、いつ来てもいい天気になるのは

土地の力でしょうね。

中庭の木陰で、ちほさんのお弁当を囲み、

カレーとクミンの効いたおからの味に、記憶が蘇ります。去年もその前も食べたこの味。

とても好み。

 きゅうりだったり、とうもろこしだったり、安心する味付けのお弁当は、

中庭の隣にある畑で自然栽培で作っているもので、癖はないけどとても野菜に力があった。

 畑も、いろいろな種類の野菜をはじめは試しててはみたものの、標高高く雪深いタイマグラの土地では実らないものもあったみたい。

 最近は、土地に合わない野菜を無理に育てるのではなく、タイマグラの土地に合う野菜の栽培を楽しんでいる様子。原産がアンデスの品種が向いていると熱く話すちほさん。

 その場所に育つ、その季節に合った食べ物を食べていたら、その場所で過ごすのに丁度いい身体になる。日常に食べているものから、健康は表情にも雰囲気にも、対人にも表れる。

 いつ会っても安心させてくれて、穏やかになるのは、そういったことも一つあるのだと感じさせてくれる。

 真面目で寡黙で優しく素敵な方、桶について、工程について、材について、丁寧に受け答えをしてくれる桶職人の奥畑さん。

 工房も、中も、外も、道具も窓から見た景色も全て、どこも絵にならないところは見当たらない。普段の仕事でも手を止めれば絶えずとまらない渓流の音と、野鳥と虫の声。


素材と、自分と、相手と、対話する時間も、場所も充分にあるようで、

この場所で仕事に向き合える強さと、優しさと、真面目さが、作るものにも溢れている。

接着剤を全く使っていない桶正さんの桶。おひつに、味噌樽に、我が家の食卓も支えてもらっている。


話は絶えず、しばらく滞在したい気持ちを今年も抑えて街に戻る。

何度行っても考えさせられて、行ってよかったといつも思う。

人に紹介したいし、連れていきたいし、僕の大好きな場所と方々。



漆掻き職人の 猪狩史幸さん

付き合いは十数年前の漆掻きの研修生の頃から。

9年前頃から毎年漆を使わせていただいている。

とても正直で、真面目。仕事に対しても真っ直ぐで、丁寧。

 日本産だから、どこどこ産だからではなくて、そんな人が採る漆を使い続けたいと思った。

朝から一人で漆の植栽場所に行き、天気と、漆木と、体力と、対話をどのくらいするのか見当もつかないけれど、毎年このシーズンにそれを続ける姿を想像すると、当然だけど一滴も無駄にしたくない。

 というと気難しくなるんだけど。

 漆という素材としても、猪狩さんの姿勢から感じるものも、いろいろな時に自分の器を支えて頂いているのです。


 漆掻きの作業を見せていただいたり、漆の特性や、漆の性質、現状、問題点などなど。

漆の木を囲んでたくさん話を聞いた。


 漆掻き技術にしても、漆栽培方法にしても、それぞれの立場や師匠、気候、伝承など、

大事にしていることが違うので、それぞれの立場を尊重すると「こうではならない」って言うのも言い切れることは少ない。知れば知るほど、まだまだ分からないことも多い。

方法論も一つではない。

 経験を積み重ね、猪狩さんはいろいろな表現を、言葉を大切に使いながら説明をしてくれた。


 情報とか、権威とか、スピーカーの力がある人の言う「素晴らしいこと」が、全て正しいとは信じ切らず。自分の中に取り込んで、一度噛み砕く。

その土地を踏んで、携わる人に会って、目で確かめてみないと分からない。

 目で確かめても、まだまだ分からないって思うことばかり。

会って話す毎に、色々を知った気にならないようにしなければ。と身が引き締まる。


漆は人の手で育てていて、人の手で掻きとっている。

ただの塗料ではない。

使った分は次に繋げるような方法を、考えて行動して次に繋げていきたい。

盛岡cafuneさん今年もお弁当ありがとうございます。

今年もとても美味しかった!


宮下智吉